|連携先エリアを先に押さえるための地理軸分析【データ分析】
| この記事のペルソナ:介護サービス法人の事業開発担当 |
| 1. はじめに |
「良さそうな連携先エリアだと思っていたら、気づいたときにはすでに近隣の競合法人が医療機関との連携を固めていた」——事業開発の現場では、こうした後悔がしばしば起こります。
介護業界は今、淘汰と再編が同時に進んでいます。倒産が相次ぐ一方で、体力のある法人は連携先エリアの選定を急いでおり、動きの早い法人ほど良い連携先を先に押さえている状況です。エリア選定を勘や土地勘だけに頼っていると、この差はどんどん広がっていきます。
本記事では、事業開発担当者が「どのエリアから動くべきか」を判断するための地理軸の考え方と、介護施設データ・医療機関データを使った具体的な進め方を解説します。
| 2. 全国の動向:淘汰は進むが、開設の勢いも止まっていない |
東京商工リサーチの調査によると、2025年の老人福祉・介護事業の倒産は176件となり、介護保険制度が始まった2000年以降で最多を2年連続で更新しました。業種別では訪問介護が91件と突出し、3年連続で最多を更新しています。通所・短期入所は45件、有料老人ホームは16件で、いずれも高水準が続いています。
一方で、医療・福祉事業全体を見ても、2025年度の倒産は478件と3年連続で過去最多を更新しており、そのうち老人福祉・介護事業が182件と最も多くを占めています。人手不足・報酬改定・物価高騰という三重苦が、経営体力の乏しい小規模事業者を中心に淘汰圧力となっている構図です。
重要なのは、倒産が増える一方で、新規開設や事業拡大の動きも止まっていないという点です。介護施設データの「開始年月日」を追うことで、淘汰が進むエリアと、新規開設が続くエリアの両方を同時に把握できます。事業開発担当者にとっては、この2つの動きを地図上で重ね合わせて見ることが、エリア選定の出発点になります。
| 3. エリア類型別:狙うべき3つのパターン |
| エリア類型 | 特徴 | 事業開発における狙い方 |
| 都市近郊拡大エリア | 人口流入が続き、既存施設の定員が埋まりやすい一方、新規参入・競合も多い | 介護施設データで直近の新規開設状況を確認し、後発でも入り込める空白ニーズを探す |
| 地方中核都市エリア | 施設数はある程度揃っているが、人手不足倒産により事業の入れ替わりが起きやすい | 撤退・淘汰が進む施設の周辺で、利用者の受け皿となる連携先を早めに確保する |
| 中山間・人口減少エリア | 施設の絶対数が少なく、広域でのサービス提供体制の見直しが論点になっている | 医療機関データと組み合わせ、訪問診療対応クリニックを核にした広域連携モデルを検討する |
| 見落としやすいポイント 自社の展開エリアだけを見ていると、隣接エリアで先に動いている競合法人の存在に気づきにくくなります。介護施設データで近隣エリアの開設・廃止動向も定期的に確認し、「隣のエリアで何が起きているか」を把握しておくことをおすすめします。 |
| 4. 業界トレンド:淘汰と再編の背景 |
・訪問介護の倒産が突出しているのは、報酬改定によるマイナス影響に加え、ヘルパー不足や燃料費などの運営コスト上昇が重なっているためとされています。
・有料老人ホームは過去10年で施設数が大きく増加し競争が激化したことで、倒産件数も高水準で推移しています。
・倒産事業者の多くは資本金1,000万円未満の小規模事業者が占めており、経営体力の差がそのまま淘汰の差になりやすい構造です。
・なお、同時期の東京商工リサーチの発表では、2025年の調剤薬局の倒産も38件と、2004年以降で最多を更新しています。大手チェーンが再編で競争力を高める一方、中小薬局の淘汰が進んでいる点は、介護施設と同様の構図です。
| 5. 事業開発への活用方法(3ステップ) |
ステップ1:介護施設データで自社エリア・隣接エリアの施設分布と開設・廃止の動きを俯瞰する
ステップ2:医療機関データを重ね、訪問診療対応や在宅医療に積極的なクリニック・病院を連携候補として抽出する
ステップ3:候補が固まったエリアから優先順位をつけ、小さく連携を打診しながら広げていく
| データ活用のヒント 在宅対応や訪問診療との連携を強めたい場合は、医療機関データの「訪問診療の有無」「在宅医療対応」といった項目が有効です。介護施設データの法人情報・事業所情報とあわせて見ることで、連携提案の材料を具体的に用意できます。 薬局との連携まで視野に入れる場合は、調剤薬局データで在宅対応の実績がありそうな店舗のエリア傾向を把握し、医療機関・介護施設・薬局の三者で面としてつながりを作れないか検討する価値があります。 |
| 6. まとめ |
介護業界の淘汰と再編は、今後も一定のペースで進むと見られます。この状況は、体力のある法人にとっては連携先を広げるチャンスでもあります。ただし、良いエリア・良い連携先ほど、動きの早い法人に先に押さえられてしまいます。
まずは自社エリアと隣接エリアの動きをデータで俯瞰し、小さく連携を打診できそうな候補から動き出すことをおすすめします。制度や市場が動いてから慌てて探すのではなく、データで先に地図を描いておくことが、事業開発における差につながります。
| 7. 参考文献・引用元 |
・東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件 『訪問介護』の倒産が突出、認知症GHも増加」 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202283_1527.html
・東京商工リサーチ「2025年度『医療・福祉事業』倒産、過去最多 ~健康と生活を支援する事業者の倒産急増~」 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202783_1527.html